標準語のアクセントには「平板」「頭高」「中高」「尾高」の4種類があります。
これら4種類を「平板」とそれ以外に分け、それぞれ「平板型」と「起伏型」と呼ぶこともあります。「平板型」は音の高さが平板で、「起伏型」は音に上下の起伏があるということです。ただし、次に述べるように「平板」という言葉には、実は大きな落とし穴が隠されています。
- 平板 1音目が低く、2音目以降は高くなる。続く助詞は同じ高さ
- 尾高 1音目が高く、2音目以降は低くなる。続く助詞は同じ高さ
- 中高 1音目が低く、2音目以降は高くなり、単語の終わりまでにまた低くなる。続く助詞は同じ高さ
- 尾高 1音目が低く、2音目以降は高くなる。続く助詞は低くなる
●「平板」にだまされるな!
標準語のアクセントでは、1音目と2音目が同じ高さになることはありません。これはアクセントについて少し習ったことがある人でも意外に見落としがちな、しかし非常に重要なルールです。
アクセントの基本ルール(1)
1音目と2音目では必ず高低が変化する。
■1音目が低く、2音目が高い・・・平板、中高、尾高
■1音目が高く、2音目が低い・・・頭高
ここで注意すべきは「平板」の場合です。プロ志望の人でも、「平板」という名前にだまされて1音目と2音目を同じ高さにしていることが少なくありません。また、関西方面の人はまったく同じ高さにすることが多いようですが、標準語では「平板」でも2音目は必ず上がるものと覚えてください。
以下に「平板」の単語の例を示します。ただし、従来のアクセント記号は一般の方にはかなりわかりにくいものですので、目で見て直感的に理解できる私のオリジナル記号を使わせていただきます。
「/」は音が高くなり、「\」は音が低くなることを表します。
時間(じ/かん) 大学(だ/いがく)
見物人(け/んぶつにん)
実は「相手に意味を伝えようとしていない、独りよがりの気持ちの悪い話し方・読み方」に聞こえてしまう大きな要因が、この「平板」の言葉を、1音目も2音目も同じ高さで発音してしまうことなのです。ふだんの会話でも「自分はテンションが低い」と感じている人は、この基本ルール(1)を意識して話すと、きちんと人に伝わりやすくなるはずです。
感情を入れて読もうとしたときに、1音目をいったん下げてから2音目をあげる癖がある人が多々います。いわゆる「しゃくり読み」と呼ばれるものですが、これは絶対にやめてください。
●尾高にだまされるな
2つ目の基本ルールを紹介します。単語のあとに「は」「が」「を」「に」などの助詞がついたときのルールです。
アクセントの基本ルール(2)
単語の最後の音と、続く助詞の音は同じたかさ
ただし尾高は助詞が下がってつく
具体例をあげましょう。読みは同じ「はし」である3つの単語、「端」「箸」「橋」のアクセントの違いを見ていきます。
■「端」は平板の単語です。単独では「は/し」と読みます。「端を折る」と読むときの「はし」と助詞「を」の高低はこうなります。
は/し ̄を
「は」より「し」が上がり、助詞の「を」が「は/し」の「し」と同じ高さになっています。
■「箸」は頭高の単語です。単独では「は\し」と読みます。「箸を持つ」と読むときの「はし」と、助詞の「を」の高低はこうなります。
は\し_を
「は」より「し」が下がり、助詞の「を」が「は\し」の「し」と同じ高さになっています。
■「橋」は尾高の単語です。単独では「は/し」と読みます。「橋を渡る」と読むときの「はし」と、助詞の「を」の高低はこうなります。
は/し\を
「は」より「し」が上がり、助詞の「を」が「は/し」の「し」よりも低くなっています。
平板の「端」、頭高の「箸」では、最後の「し」と続く助詞の「を」は同じ高さです。尾高以外の単語は全て、このルールが当てはまります。しかし「橋」のように尾高の単語だけは、最後の「し」よりも助詞の「を」が下がります。
このように「助詞から見たときに」その単語の「尾」(最後の音)が高く見えるから「尾高」というのです。
「尾高」という言葉にだまされて「単語の最後の音が上がる」と覚えている人が少なからずいますが、助詞がつかなければ「端」と「橋」はどちらも「は」より「し」が上がる音です。助詞がつい他ときに初めて「端」は平板、「橋」は尾高であることがわかるのです。
●一度下がったら上がらない
アクセントにはもう1つ、重要なルールがあります。1つの単語の中で、一度、アクセントが下がれば、もう二度と上がることはないというルールです。
アクセントの基本ルール(3)
一度、音が下がったらその単語内で再び上がることはない
単語内で音が下がるのは、頭高と中高だけです。平板と尾高は、上がりっぱなしですから、ここでは考える必要はありません。
■頭高の例
む\がむちゅう(無我夢中) あ\かちゃん(赤ちゃん)
エ\ントリー シャ\ーベット
■中高の例
お/か\あさん(お母さん) お/ま\わりさん (中1高)
か/みが\かり(神がかり) ホ/ウレ\ンソウ (中2高)
そ/れとな\く つ/ばきあ\ぶら(椿油) (中3高)
お/わらいげ\いにん(お笑い芸人) さ/きおとと\い (中4高)
このように、どんなに長い単語でも一度下がったら、もう上がることはありません。なお、中1高、中2高・・・とあるのは、中高の言葉で音が上がってから何音で下がるかを表しています。中1高なら1音で下がり、中2高は2音、中3高は3音、中4高は4音
で下がるわけです。
なぜこのようなルールがあるかは、複合語の場合を考えればよくわかります。たとえば、「インターネットコミュニティ」という単語は「イ/ンターネッ\ト」と「コ/ミュ\ニティ」という、それぞれ中高の単語が合体した言葉ですが、複合語になると、
イ/ンターネットコミュ\ニティ
という中8高の音になります。そう、「イ/ンターネッ\ト」のもともとの下がり目がなくなってしまい、8音もの間、ひたすら平らになるのです。
もし、下がり目を残していたら、単に「インターネット」と「コミュニティ」という2つの単語が並んだだけの音になってしまい、複合語であることがわからなくなってしまいます。基本ルール(3)があるから、1つの言葉として認識ができるわけです。
以上がアクセントの基本ルールです。
●1音でもアクセントは違う
ひとつ、補足として「1音の単語」の場合の説明をします。
「日」と「火」(いずれも「ひ」)、「葉」と「歯」(いずれも「は」)など、たった1音で成立している場合でも、実はアクセントの種類が異なります。その単語だけでは区別がつきませんが、助詞がつくことで明らかになります。
■平板の場合
「1音で平板」の場合は、その単語の音よりも、続く助詞の音の方が高くなります。これは基本ルール(2)の「単語の最後の音と、続く助詞の音は同じ高さ」という規則に反していますが、基本ルール(1)「1音目と2音目では必ず高低が変化」して「平板では2音目の方が高くなる」という規則が、変則的に適用されたものと解釈することができます。
助詞がその前の音(単語の最終音)より上がるのは、この場合だけです。具体例をあげます。
日が(高い) → ひ/が(高い)
葉が(落ちた) → は/が(落ちた)
■尾高の場合
「1音で尾高」の場合は、その単語の音よりも、続く助詞の音の方が低くなります。1音では「頭高」との区別はなくなりますので、「尾高」ではなく「頭高」に分類される場合もあります。
火が(ついた) → ひ\が(ついた)
歯が(痛い) → は\が(痛い)
では、少しここまでのおさらいをしましょう。以下の文の太字の部分を、基本ルールに従って声に出して読んでみてください。
(1)お貸しする。(平板)
(2)岡氏は言う。(頭型)
(3)お菓子を食べる。(中高)
(4)女がいる。(尾高)
できましたか? それぞれの読み方は次のとおりです。
(1)お/かし _/ ̄ ̄
(2)お\かしは  ̄\___
(3)お/か\しを _/ ̄\__
(4)お/んな\が _/ ̄ ̄\_
ここまでが、アナウンサーや役者・声優を養成する学校ならとりあえず教えてくれる、もしくは教本などに解説されているアクセントの基本中の基本です。ただし勉強したことのある人はかえって「平板」や「尾高」に関して勘違いしている可能性がありますので、よく確認してください。
(「魅せる声」のつくり方/篠原さなえ より)