2016年12月17日土曜日

アクセントの考え方

●「アクセントの核」とは
高低で変化をつける日本語のアクセントにおいて「肝」となるのが、アクセントにおいて、音を高く表現するポイントです。これを「アクセントの核」といいます。これは、まさに「アクセント」そのもののことです。
ところがアクセントの核については、非常に多くの人が大きな誤解をしていますので、ここでまず注意喚起をしておきます。
アクセントの核とは、決して「高く上がった音」のことではありません。一語の中で音が下がる時の、「下がる直前の音」のことをいうのです。

「アクセントの核」の基本ルール(1)
「アクセントの核」とは下がる直前の音である 

実はアクセントにおいて最も重要なのは、上がることではなく「下がること」なのです。そして、下がる直前の「最も高さを感じる音」を「アクセントの核」と呼ぶのです。
では、アクセントの角種類を例に、具体的に説明していきましょう。太字がアクセントの核です。

■頭高の「アクセントの核」
頭高の単語は、1音目が高く、2音目以降が下がるのでしたね。ですから当然、1音目が「アクセントの核」です。上がっている音は最初の1音だけですから間違えようがありませんね。
 \ラス
 \んがく(文学)
 \やこ(親子)

■尾高の「アクセントの核」
尾高の音は、助詞が下がってつくのでした。ですから、下がる直前の音はつねに、単語の最後の音です。
アクセントの核を「高く上がる音」と誤解していると、上がった2音目を「アクセントの核」だと思ってしまうのが尾高です。くれぐれも間違えないでください。
 お/と\が(男が)
 な/か\が(仲間が)
 お/とう\が(弟が)

■中高の「アクセントの核」
2音目で上がってから1音で下がる中1高の場合は簡単です。高い音は1音だけですから、間違えようがありませんね。
 あ/\い(青い)
 ゆ/\ぐに(雪国)
 ちゃ/\んむし(茶碗蒸し)
では、次の例はどこが「アクセントの核」でしょうか?
 に/ほんじ\ん(日本人)
これは中3高の言葉です。つい最初に上がった音が「アクセントの核」と思いがちですが、「下がる直前」の音なのですから、上がっている音の3音の最後の音が「アクセントの核」です。
 に/ほん\ん(日本人)
以下の言葉も同様です。
 こ/くご\てん(国語辞典)
 そ/れと\く

■平板の「アクセントの核」
最後に、平板の言葉の具体例を示しますので、どこが「アクセントの核」か考えてみて下さい。
 ぎ/んざ ̄で(銀座で)
 せ/んもんか ̄が(専門家が)
 あっ/とうてき ̄に(圧倒的に)
いかがですか?どこまで行っても「下がり目」がないので、悩んでしまわれたのではないでしょうか。
実は、これは少し意地悪な出題でした。平板の場合はもちろん2音目は上がりますが、下がる場所がないので、「アクセントの核」は「ない」のです。
つまり平板とは、音の「下がり目」=「アクセントの核」がないから「平板」というのであって、決して「すべての音が平坦である」わけではないのです。「上がり目」に注目してしまうと、2音目が上がるのになぜ「平板」というのかわからなくなりそうですが、「下がり目がない」と考えれば納得できますね。

「アクセントの核」の基本ルール(2)
音の「下がり目」=アクセントの核が失われることはほぼない

このようにアクセントで大切なのは、あくまでも「音の下がり目」なのです。
初めてアクセントを学ぶ方は、このルールをしっかり覚えて下さい。あげるべき音もきちんと上げないとメリハリのない、何を伝えたいのかよくわからない「心のない」言葉になってしまいがちです。「声に出して読む」ことに慣れていない人も、きちんと「上がり目」を意識すれば、「下がり目」も下げやすくなります。
1音の上げ下げが正しくできるようになれば、とりあえず、わかりやすい、はっきりとした読みという第1ステップは完了です。

●特殊音の「上がり目」と「下がり目」
ここで、特殊音のアクセントについて補足しておきます。
促音の「っ」、撥音の「ん」、長音・重母音の「ー」「う」「お」「い」はそれだけで1拍(1音)と数えます。例えば「百歩」(ひゃ・っ・ぽ)は3拍、「インターネット」(イ・ン・タ・ー・ネ・ッ・ト)は7拍です。このような特殊音の前にアクセントの「上がり目」や「下がり目」があるとき、これらの音をどう言えばいいのかは、迷うところでしょう。

■特殊音の前に「上がり目」があるとき
どの特殊音の場合でも、「上がり目」の音と、その次の特殊音の2音を「まとめて」次の音で上げるように発音しないと、かなり不自然になるのです。
たとえば「葉っぱ」(は/っぱ)は、「っ」では1拍分ためているだけでは音は出ず、その後ろの「ぱ」の音でいきなり上がる感じです。「は」と「っ」は、ひとかたまりのイメージです。
「肝心」(か/んじん)という言葉なら「ん」だけを上げるというより、その前の「か」をまとめて「かん」というひとかたまりにして「じ」で上がっていくように言うほうがナチュラルですよね。
「コーヒー」はアクセント上は「コ/ー\ヒー」と記されますが、実際に発音するときは「コー/ヒ\ー」のように「コー」と2音まとめて上がっていくように言わないと、かなりわざとらしく聞こえてしまいます。

■特殊音の前に「下がり目」があるとき
「下がり目」の場合は、基本的には、アクセント記号通りに言います。(平板と尾高は単語内に「下がり目」がないので、考える必要はありませんね。)
ただし、「頭高の長音」に限っては、上がり目と同じように、2音をまとめ気味にして下げる感覚で言うほうがナチュラルです。たとえば「シャーベット」はアクセント上は「シャ\ーベット」ですが、言うときは「シャ」と「ー」をまとめて「シャー\ベット」と言うほうが自然ですよね。
しかし、同じ長音でも中高の場合は、2音まとめてしまうと、アクセントそのものが変わってしまいます。たとえば「コントロール」は「コ/ントロ\ール」と言うアクセントですが、実際に話すときは「上がり目」は「コン/」とまとめて上げ、「ロ\ール」はアクセント通りに下げます。もしまとめて「ロー\ル」と言ってしまうと、完全に訛って聞こえます。
なお、促音(「っ」)は音がありませんので、「っ」のところで下げると言うよりは、その次の音でポンと下がる感覚です。この「無音で下げる」のが苦手な人が多いので要注意です。


特殊音の「上がり目」と「下がり目」についてのルール
(1)「上がり目」はつねに次の音と2音まとめて上げる
 け/っこん(結婚) → ケッ/コン
 こ/おり(氷) → コー/リ
 せ/いさく(制作) → セー/サク
 し/んじん(新人) → シン/ジン
(2)「下がり目」は基本的にアクセント通りに下げる
(3)頭高の長音のみ「下がり目」を2音まとめ気味に下げる
 コ\ート → コー\ト
 と\うた(淘汰) → トー\タ
 せ\いか(成果) → セー\カ
(4)促音は次の音でポンと下げる
 イ/ンターネ\ット → イン/ターネッ\ト
 け\っこうな(結構な) → ケッ\コーナ


(「魅せる声」のつくり方/篠原さなえ より)